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長崎拘置支所の収容業務停止に強く反対する理事長声明

第1 声明の趣旨

1 当連合会は、長崎拘置支所の収容業務を停止するとの法務省の決定に対し、強く反対する。

2 当連合会は、長崎拘置支所の修繕又は建て替えを行い、長崎拘置支所での収容業務を継続するよう求める。

第2 声明の理由

1 はじめに

拘置所は、有罪か無罪かが確定する前の逮捕・勾留されている被疑者・被告人(未決の者)等を収容するための施設である。そのうちの一つである長崎拘置支所は、主に、長崎地方裁判所本庁において起訴された被告人を収容する施設である。同支所は、長崎県内の拘置支所の中で、最も収容可能人数が多く、年間の収容合計人数も最も多い。

長崎刑務所は、令和5年2月6日付文書において、長崎県弁護士会に対し、老朽化を理由に、「令和5年11月末頃に、長崎拘置支所の収容業務を停止し、収容業務を長崎刑務所(諫早市)に集約する」と通知した。

しかし、長崎拘置支所での収容業務が停止され、長崎刑務所に集約されることになった場合、次のような重大な弊害が生じる。加えて、この決定に際して長崎県弁護士会への照会やヒアリング等は一切行われていない。

よって、当連合会は、長崎拘置支所の収容業務を停止するとの決定に強く反対するとともに、同支所の修繕又は建て替えを行い、同支所における収容業務を継続するよう求めるものである。

2 収容業務停止に伴って生じる弊害
(1)被告人と弁護人との接見に著しい支障が生じること

ア 被告人と弁護人との接見交通権は、憲法第34条前段に由来する重要な権利である。また、拘置所に収容される被告人は、有罪の確定していない未決拘禁者の立場にあり、未決拘禁者の処遇にあたっては、未決の者としての地位を考慮し、その防御権の尊重に特に留意しなければならない(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第31条)。被告人と弁護人は、接見時において、公訴事実の認否、検察官取調請求証拠に対する意見、被告人質問の準備等、公判における重要な打合せを多岐にわたって行うことになる。また、被告人と弁護人は、接見を重ねることによって信頼関係を構築することができる。

被告人と弁護人の接見交通が適時かつ十分に保障されることは、被告人の防御権にとって極めて重要である。

イ 長崎刑務所に収容業務が集約された場合、たとえば、長崎駅から同刑務所に赴くには、公共交通機関を利用した場合で片道1時間半から2時間、自家用車を利用した場合でも片道1時間近くを要することになり、長崎拘置支所に赴くのに比し、所要時間が格段に増すことになる。

また、収容業務が長崎刑務所に集約されると、長崎地裁・本庁管轄地域と長崎地裁・大村支部管轄地域の被告人がいずれも長崎刑務所に収容されることになり、収容人数が相当増えることが予想される。それにより、弁護人の接見や家族の面会が集中し、接見・面会の待ち時間が非常に長くなる事態が生じ得る。その結果として、弁護人の時間的制約により、接見回数及び接見時間が減少しかねない。

特に、公判が連日開廷される裁判員裁判においては、被告人と弁護人は公判終了後に連日接見することもあり、弁護方針や尋問事項をその都度確認したり、翌日の公判について打合せ等を行ったりする必要がある。接見のための十分な時間が確保できないとなれば、連日開廷の前提が崩れることにもなりかねず、刑事裁判実務における影響は大きい。

ウ このように、長崎拘置支所の収容業務を停止して長崎刑務所に収容業務を集約することになれば、適時かつ十分な接見が困難となり、被告人と弁護人との接見に著しい支障が生じ、ひいては被告人の防御権を侵害する。

(2)被告人と家族等との面会に多大な支障が生じること

ア 前記のとおり、長崎刑務所に収容業務が集約された場合、移動時間が格段に増加したり、接見するための待ち時間が非常に長くなったりする事態が生じ得る。

イ もとより、被告人は、家族、友人、職場関係者、福祉関係者等(以下「家族等」という。)重要な相手と面会することで、身体拘束がされている状況でも、社会生活上重要な情報を共有したり、社会復帰に向けた計画を打ち合わせたりすることができる。被告人と家族等との間で、再犯防止に向けた取組みについて打ち合わせることも多く行われている。

特に、被告人にとって、将来のこと、子どものこと等、家庭内の重要な問題について、家族と面会して協議を行う必要性は高い上、家族との面会を通じた交流そのものが精神的安定や再犯防止・更生の意欲につながる。

また、被告人が家族等と面会することは、裁判の準備や被告人の更生にとっても重要である。具体的には、家族等が身元を引き受けたり、情状証人となる場合、家族等が、被告人と面会を重ね、犯行に至った根本原因を話し合ったり、監督方法や再犯防止の取組み等を具体的に直接協議したりすることで、より実効的な身元引受や監督につながっていく。

よって、被告人と家族等が、適時かつ十分な面会をする必要性は高い。

ウ このような重要な意義をもつ家族等との面会が、所要時間や費用が増加したり、面会室が混雑して待ち時間が非常に長くなったりすることで制約されることは、被告人の社会復帰に向けた支援体制を構築することの大きな支障となる。

3 全国的な刑事施設の収容業務停止や廃止の傾向に歯止めをかける必要性

国は、近年、刑事施設の老朽化、予算の不足、収容人数の減少傾向、職員の合理的人員配置等の理由で、全国的に拘置支所の収容業務停止や廃止を進めている。長崎拘置支所の収容業務停止もこのような国の方針の一環であると考えられる。

しかし、すでに述べたとおり、拘置支所において、弁護人と被告人との接見交通や家族等と被告人との面会が適時に十分になされることが、被告人の防御権や更生・社会復帰の観点から重要であり、長崎拘置支所に限らず、収容業務停止や廃止による弊害は大きい。全国的な拘置支所の収容業務停止や廃止の傾向は、地方の司法インフラを毀損するものであり、もはや長崎だけの問題ではない。長崎拘置支所の収容業務停止を許せば、全国的な刑事施設等の収容業務停止や廃止の傾向が一層広がることが懸念され、このような傾向に歯止めをかけなければならない。

4 結論

以上のとおり、長崎拘置支所の収容業務を停止するという法務省の決定には、弁護活動や被告人の人権保障の観点から重大な問題がある。当連合会としては到底容認できるものではなく、同決定に強く反対し、修繕又は建て替えを行ったうえで同所において収容業務を継続するよう求める。

2023年(令和5年)8月25日

九州弁護士会連合会
理事長 笹川 理子